「Dead Hunter」
 
 
 ここは…剣と魔法が飛び交う世界…
 東の国より現れし魔物、
 ダギオンが歩き回り…
 行き交う人々を苦しめ…そして…
 死に追いやる…
 人々が頼る者は、剛剣を振るい…
 魔法を爆裂させ…
 あるいは…魔物を捕らえる者…
 人々は言う…下の者達を…
 死線に生きる者達…
 「デッド・ハンター」と…




「…ダイス、もうすぐ来るぞ!」

「ああ、…分かってる」

 コールが緊張気味に問いかけた返事がこれだ…
 ダイスは何事も無かったかの様に…
 そして静かに腰の剣を抜いた…
 …ガサ…
 かすかな物音に二人は物も言わずにその音のする方へ走り出す…
 コールがそこへ着くか着かないかの内に…その音の主が顔を見せる…

『ごぉぉ〜がぁ〜!!』

 その主は顔を出すやいなや、雄叫びを上げる…そして、
 コールとダイスの動きが止まる…

「ちっ…」

 ダイスが小さく舌打ちをする…

「…ぐっ!」

 そしてコールも生唾を飲み込み、緊張気味に身構えた…
 二人の前に現れたのは、身の丈2メートルほどのダギオンだったが…
 通常彼らが刈っている者とはちがう…
 ここら変ではめったにお目に掛かれない炎を吐くタイプだ…

「なんてこった、いきなり大物かよ…」

 ダイスが冷や汗を流し、剣を構えたままでその魔物と向かい合う…

「ヤベーよダイス!…ずらかろう!!」

 コールの極力小さく絞った言葉に…
 ダイスも賛成ではあったが…ダイスは引かない…
 いや、引けないのだ…ここで引けばヤツは必ず襲いかかってくる…
 背中のまだら模様は間違い無く炎を吐くタイプ…
 心の中で、もう少し慎重に相手を確認するべきだったと
 後悔するダイスであったが…
 もうそんな事を言っても始まらない…
 ヤツはゆっくりと頭を下げる…

「ヤベ!」

 ダイスが叫ぶやいなや、そのまだら模様のダギオンは炎を吐いた…

「がぁ!!」

 ダイスは反射的に顔を両手で覆ったが…
 そんな物で炎が防げる訳が無い…
 そこには…上半身が吹き飛んだ固まりが横たわる…

「ダ、ダイス!!…」

 コールの叫びも虚しくダイスの剣が宙を舞う…そして…コールも…




 赤レンガ作りの家が立ち並ぶ町並み…
 王立魔法学院へと続く大通りを中心に…町は活気づいている…
 その大通りから少し離れた路地裏に、ハンター達のたまり場…
 宿屋「エイミィー・ハウス」が有る…
 その1階の食堂件酒場は今日もハンター達が集い…
 情報交換やお互いの無事を確かめ合い…
 命有る今日と言う日に祝杯を上げていた…
 ここのオヤジは宿屋の名前に似合わず、厳つい顔の持ち主で…
 大抵の事では驚かないハンター達も別の意味で一目置いていた…が、
 このオヤジ…なかなか情に厚くぶっきらぼうな言葉使いとは裏腹に…
 ハンター達の信頼も得ていた…

「おい、ジョブ!…今日はダイスとコールの顔見てねぇーが、知ってるか?」

 オヤジのぶっきらぼうな問いかけに、嫌な顔一つせず答えるジョブ…

「さ〜な!…今日はリーガの森の北部あたりを回って見るとか言ってたけどな」

「…そうか…にしちゃー遅ぇ〜な…あいつら」

 日が沈みかけた空をカウンター越しから眺め…
 オヤジはぽつりとこぼした…
 そんなオヤジを見たジョブは、自分も少し心配になりかけたが…
 そんな考えを振り払うかの様に笑いながら言って見せた…

「オヤジさんは心配症だな〜!…コールだけならともかく、ダイスも居るんだ…大丈夫さ」

「…ふっ…そうだな」

 そう言うと、オヤジもニヤリと笑って見せた…

 そんなオヤジ達のやりとりとは関係無く、
 店のほぼ中央部分に有るテーブルを
 我が物顔で占領し…一人は、ライト・メイルに身を包み…特注で有ろう、
 ロング・ソードをテーブルに立てかけ、
 出てきた料理を黙々と口へ運ぶ女…
 もう一人…いかにも魔導師と言うローブを着込み、テーブルの下に…
 隠す様に広げた手帳を、くら〜い顔してブツブツと読みあさってる女…
 見るからに…対照的な性格の二人が同じテーブルに着く…と言う、
 アンバランスさを周りに漂わせていた…
 剣士と魔導師の組み合わせは珍しく無いが…
 そのアンバランスな性格の違いと…
 ここら変では見かけない顔に、ハンター達も気にはなって居たのだが…
 まさか…『何なんだ、お前ら!』なんて面と向かって言う訳にもいかず…
 女達の周りに位置するテーブルにいるハンター達は、
 耳がダンボ状態になり…
 どうにかして、その女達の情報を得ようとしていたのだが、
 二人の女は、自分の用事が忙しいらしく…会話どころかお互いの顔すら、
 見ようとしない…流石に耳をダンボ状態にしていたハンター達も自分の行動が
 アホくさく成って止めようかと思った頃に、剣士風の女が口を開いた…

「…ハミル、あんたさ〜食事の時くらい黙って食べなさいよ…」

 と言いつつ剣士風の女はハミルの皿へホークを伸ばす…

『カキン!』

「ぐっ…!」

 間髪入れず、剣士風の女のホークは…ハミルのホークにブロックされた…

「…カーナ…それ、私の肉団子…」

「……」




 しばらく続く沈黙…
 その光景を目の当たりにしたハンター達は、このハミルとカーナとか言う…
 女達が次に取る行動を予測し、身構えた…
 そう…ハンター達はこの先…決まり事の様にケンカが始まるに違いないと…
 考えたからだ…
 カーナとか言う女が静かに立ち上がり…ハンター達は生唾を飲み込む…
 女は左手を高々と上げ…目を見開いた瞬間…

「おっちゃ〜ん!肉団子おかわり〜♪」

     『ドカッ!…ガシャァ〜ン!』

 その瞬間、ハンター達は皆コケた…
 流石にその光景を目の当たりにしたカーナとハミルも…
 自分たちが(目立っている…)と言う事を自覚したらしい…
 きょとん…とした顔であたりを見回し…カーナがぽつりと呟く…

「え?…ダメなの?…(汗)」

 間髪入れず、ハミルが言い放つ…

「あんたが卑しいからよ…」

「…だって…足りなかったんだもん…」

 情けない声で呟くカーナ…それを見て恥ずかしそうに顔を右手で
 押さえるハミルであった。
 一方…まったく的はずれな反応と…想像とは逆だった二人の性格に…
 ハンター達は起きあがる気力すらそがれ…ただ、
 床に「のぺぇ〜…」と横たわるしかなかった…
 …ただ一人を除いて…

「あいよ!…肉団子お待ち!」

 恥ずかしそうに小さくなっているカーナの前に…
 静かに置かれる肉団子…エイミー・ハウスの主人は…

「ニッ…」

 っと笑い呟いた…
「元気な嬢ちゃん達だな!」

 ハミルとカーナは苦笑いを浮かべた…



                                    続く!



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